大阪地方裁判所 昭和26年(ワ)1246号 判決
原告 高橋蹄一
被告 大阪計器株式会社
一、主 文
被告会社の昭和二十六年四月二十六日の臨時株主総会に於て為した
一、西部直治、前田昌を取締役に中尾秀太郎を監査役に選任し
二、目的を(一)、自動車用部分品並に時計、織機、瓦斯、電気、水道、建築用品其他金物の販売、(二)、右に附随する一切の事業に変更し
三、営業年度を二期に分ち毎年三月三十一日から九月二十日迄、九月二十一日から翌年三月二十日迄に変更した各決議は取消す。
訴訟費用は被告の負担とす。
二、事 実
原告訴訟代理人は主文第一項記載の被告会社の株主総会の決議を無効とする旨の判決を求め、その請求原因として次の通り述べた。被告会社は前記肩書地に本店を有する資本金五十万円一株の金額五十円とする株式会社であり、原告はその株式九千三百株を所有する株主である。
被告会社は昭和二十六年四月二十六日開催の臨時株主総会に於て主文第一項に記載の通り取締役、監査役の選任並に定款変更の決議をなしその旨の登記を為した。右株主総会開催に当つて被告会社は原告は勿論株主高橋宗一に対してその招集通知を発せず一部の株主より期間短縮承認書を徴しているに過ぎない。而して右株主総会の出席者は松原喜之次外八名この株式総数七千五百株と云うのであるが、株主名簿によると右出席者中松原喜之次は昭和二十五年七月五日床島常三郎より、目次正一は同日田中又より、西部直治は小野力より山口、富松を経て昭和二十六年四月十日、中尾秀太郎及び前田昌は同日片山明治より夫々株式の譲渡を受けたものとして登載されている。然し乍ら被告会社は株券を発行していないから当事者間に於ける株式譲渡の効力は格別、会社に対しては右株式の譲渡の効力を生じないものであつて、被告会社としても之等の者を株主として遇することは許されない。従つて前記松原喜之次外四名は株主ではなく、右総会に出席した株主は天野省三外三名此の株式総数三千五百株に過ぎず之は被告会社の株式総数一万株の過半数に達しない。
以上の通り前記株主総会はその招集通知が株主全員に対して発せられず且つ其の過半数の者が期間短縮の同意書をも提出していないのであつて、斯のような場合は決議取消の原因とみるべきではなく決議無効原因とみるのを相当とし、右株主総会は適法に成立しておらず其の決議は当然無効である、と述べた。<立証省略>
被告訴訟代理人は原告の請求棄却の判決を求め、答弁として次の通り述べた。
被告会社が原告主張の通りの会社であること、原告主張の通り被告会社は臨時株主総会を開催し役員の改選及び定款変更の決議を為しその登記を了した事実は認めるが原告の其余の主張事実は争う。原告は九千三百株の株主ではなく名義のみの一千株の株主たるに過ぎない。
原告は元被告会社の代表取締役であつたが昭和二十五年七月二十七日之を辞任し、其後被告会社の親会社ともいうべき訴外大阪メーター株式会社の専務取締役として就任中右訴外会社の役員会に於て当分専務取締役を置かない旨の決議があつたので原告は専務取締役たる地位を失い現在訴外会社の平取締役である。
被告会社は昭和二十六年四月十日午後三時役員会を開催したが、従来の例に做い姉妹会社たる前記訴外会社の役員会も同時に同一場所に於て開催したので、原告は訴外会社の役員会に出席したから被告会社の役員会にも同席したものである処、被告会社の右役員会に於て同年同月二十六日開催すべき株主総会に於ける議題を決議し、原告に口頭を以て右株主総会の日時、場所、議案を告知し原告は之を承諾したのである。又株主高橋宗一は原告の息子であつて原告が株式の振当上同人名義を使用しているのであり、しかも同人は東京都に在住の関係で原告が同人の株主権を自由に行使しているから原告が代表取締役に就任中の前例に従い原告に通知すれば殊更に通知する必要はなかつたのである。其の他の株主については同月十二日承諾書により総会の通知に代えた次第である。原告が代表取締役に就任中も株主総会の招集に正規の通知を発したことはなく常に口頭で告知していたものである。従つて株主総会の通知を全然発しておらぬのではない。
昭和二十六年四月二十六日の臨時株主総会に於ける出席者は松原喜之次(所有株式一千株)、天野省三(同一千株)、鶴岡松五郎(同一千株)、目次正一(同一千株)、前沢一義(同一千株)、西部直治(同一千株)、中尾秀太郎(同五百株)、前田昌(同五百株)、酒井浩七(同五百株)である。原告は株券発行前になした株式の譲渡は会社に対し効力を生じないから株式の譲受人が株主として総会に出席して為した決議は無効であると主張するが、株式の譲渡は自由であり被告会社は株式譲渡の届出を受理して之を承認し株主名簿に記載し有効なる譲受人としておる次第である。原告は被告会社設立当初の昭和二十五年一月十八日より同年七月二十七日辞任するに至る迄代表取締役として就任中、株主小野力の持株千株を山口彌一に、天野省三の持株千株中五百株を天野正信に各譲渡したことを承認して株主名簿に記載し、右譲受人等は同年五月一日の臨時株主総会に出席して決議権を行使し、右総会に於て原告は議長として右両名を取締役に指名し総会は之を承認可決しており、又同年七月五日株主床島常三郎は持株千株を松原喜之次に、山口彌一は持株千株を富松実に夫々譲渡したが之を承認して株主名簿に記載せしめ、同年五月二十七日の臨時株主総会に於て右三名を取締役に、松原喜之次を代表取締役に選任し原告は取締役を辞任したのである。斯くしてその間何等実害もなかつたのであるが原告が前記大阪メーター株式会社の専務取締役の職務を解任されたためその報復手段として被告会社の攪乱を策したものに外ならず、要するに本件株主総会の決議は無効ではない、と述べた。<立証省略>
三、理 由
被告会社が資本金五十万円、一株の金額五十円、株式総数一万株とする株式会社であることは当事者間に争がない。原告は被告会社の株式九千三百株を有する株主なりと主張するが右事実を認め得べき証拠はなく、成立に争のない乙第五、第十号証によれば原告は被告会社成立当初より引続き一千株の株主であることが明らかである。被告会社の昭和二十六年四月二十六日開催の株主総会に於て主文第一項に記載の如く取締役、監査役の選任並に目的変更等の決議を為しその登記を了したこと及び右株主総会に於ける出席者は松原喜之次(所有株式一千株)、天野省三(同一千株)、鶴岡松五郎(同一千株)、目次正一(同一千株)、前沢一義(同一千株)、西部直治(同一千株)、中尾秀太郎(同五百株)、前田昌(同五百株)、酒井浩七(同五百株)の九名(被告の準備書面に十名とあるは誤記と認められる)此の株主総数七千五百株であることについては当事者間に争はない。而して被告会社が株券の発行をしていないことについては被告は争わないところ、成立に争のない乙第十号証(株主台帳)によると右出席株主中松原喜之次、目次正一、西部直治、中尾秀太郎、前田昌の五名はいずれも原始株主ではなく、被告会社設立後に於て株式を譲受けた株主であることが認められる。そこで原告は右五名は被告会社の株券発行前の株式譲受人であるから商法第二百四条第二項の規定により右各株式の譲渡は会社に対して効力を生ぜず株主たる地位を取得していないものであると主張するからその点について考察する。
商法第二百四条第二項「株券発行前ニ為シタル株式ノ譲渡ハ会社ニ対シ其ノ効力ヲ生セズ」との規定は、株券発行前の株式の譲渡は当事者間に於ける効力を否定するものではないが、会社に対する関係に於てはその効力を生じないのは勿論、会社からも之を認めることはできない趣旨と解し、その理由は、会社に対し効力を生ぜずと云う文言解釈から単に会社に対抗し得ない場合とは異ると言い、或は又昭和二十五年法律第百六十七号商法の一部を改正する法律による改正前の商法に於ては記名株式の移転は取得者の氏名を株券に記載することを名義書換の要件としたから株券発行前に於ては株式の譲渡があつても株券に取得者の氏名を記載することが不可能であるから之を認めることができないと云うのを通説とする。然し乍ら会社が長期間自ら株券を発行せず放置するときは事実上株式譲渡の自由を奪うこととなり、又たとえ株主は会社に対し株券発行請求権があつても株主の請求にも拘らず同会社が株券の発行を怠る場合には著しく不都合の結果を生ずる。而して前記改正商法が株券上に取得者の氏名を記載することを廃止し、又会社成立後遅滞なく株券の発行を要するものと規定した趣旨から考えてみても、右商法改正前の解釈としても商法第二百四条第二項は会社がその成立後遅滞なく株券を発行することを前提とした規定であつて、会社が成立後通常株券を発行し得る合理的時期以前に於ける株式の譲渡を意味するものと解すべきである。従つて会社が成立後長く株券を発行しないで放置しているような場合には、株主は株式の譲渡を会社に対し主張し得るのみでなく、会社が譲渡を承認して株主名簿に株式所有名義の変更を記載したときはその株式の譲渡は有効と解しなければならない。
本件についてみるに被告会社は昭和二十五年一月十八日設立登記をなし(成立に争なき甲第一号証、登記簿謄本)、株式の譲渡については何等の制限もしていないところ(同乙第五号証、原始定款)、爾来今日に至るまで株券の発行を為さずして経過し、その間前記五名及びその他の者の株式譲受を承認して之を株主台帳に記載し以て株主として取扱つてきたことは前顕乙第十号証により認められるのであつて、斯る場合は株主からは勿論被告会社からも右株式譲渡の効力を否認し得ないものと言わねばならない。
そこで被告会社の昭和二十六年四月二十六日の臨時株主総会の決議の効力について考察するに、右株主総会の招集通知が発せられなかつたことは当事者間に争がなく、被告会社の株主台帳(乙第十号証)によると当時の株主は原告外十一名であるところ、当裁判所が真正に成立したものと認める乙第三号証の一乃至四によれば右株主総数中八名のみが右株主総会開催の日時並に議案についての承諾書を被告会社に提出していることが認められるが、その他の株主に対しては、(代表取締役松原喜之次は招集者として別論とするも)右のような承諾書も徴していないから、前記株主総会の招集手続は瑕疵あるものと言わねばならない。被告は原告に対しては口頭を以て告知し、株主高橋宗一は原告の息子であり且つ従前原告がその株主権を行使してきたから原告に対して告知すれば足る旨の主張をするが、商法第二百三十二条の法意からみても株主総会の通知は文書を発して為すべきものであつて口頭伝達の方法は許されないことが明らかであり、又たとえ被告会社に於ては従来株主総会の通知は常に口頭伝達の方法によつていたとしても、そのような前例があるからといつて口頭伝達の方法が有効となるものではない。のみならず株主山本義三に対しては口頭による通知すら為されていないことが認められるのである。斯のような場合は商法第二百三十二条により総会招集の手続が商法の規定に違反するものとしてその決議取消の事由となるものであるところ、原告の本訴決議無効確認の訴には決議取消の事由をも主張していることから決議取消の訴をも包含していると解すべきものであるから、前認定の事由により被告会社の昭和二十六年四月二十六日の臨時株主総会に於て為した決議は之を取消すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 三上修)